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サーキュラーエコノミー

CIRCULAR ECONOMY

サーキュラーエコノミー

枯渇資源の有効活用について


Closing the nutrient loop

リンと窒素――「作れない資源」と「漏れる資源」を、
関所でつかまえる

2026.06 公開
カテゴリ:サーキュラーエコノミー / 枯渇資源
読了めやす:約7分

3行でわかる事業概要

  1. リンと窒素は、作物を育てるのに欠かせないのに「枯渇」が心配される資源。でも問題の中身は正反対です。
  2. リンは掘るしかない=在庫が尽きる資源、窒素は空気に無尽蔵でも、使える形にするのにエネルギーがかかり、しかも漏れて汚染源になる資源です。
  3. どちらも今は「使い捨て」。漏らす前に回収して畑へ戻す循環(サーキュラーエコノミー)が、枯渇と汚染を同時に減らします。

01そもそも「枯渇資源」って? ―リンと窒素は“いのちの肥料”

作物が育つには、おもに窒素・リン・カリウムという3つの栄養が必要です。これらをまとめて栄養塩と呼びます。私たちの食べものは、ほぼすべてこの栄養塩の上に成り立っています。

たとえると
作物にとっての窒素・リン・カリウムは、人にとっての「ごはん・おかず・水」のようなもの。どれが欠けても元気に育ちません。なかでもリンと窒素は、量も多く必要で、近年「足りなくなるかも」と心配されている主役です。

20世紀のはじめ、空気中の窒素から肥料を人工的につくる方法(ハーバー・ボッシュ法)が生まれ、化学肥料が「緑の革命」を支えました。その結果、世界の人口は20世紀の100年で16億人から60億人へと一気に増えたと言われます。つまり私たちの暮らしは、この2つの栄養塩にがっちり支えられているのです。

02リン ―“作れない”在庫が、じわじわ減る

リンは、地中のリン鉱石を掘ることでしか手に入りません。文字どおり「在庫が決まっている」資源です。近年はこの鉱石の品位が落ち、枯渇が現実味を帯びてきました。日本に至っては国内に鉱床がなく、ほぼ全量を輸入に頼っています。

やっかいなのは、リン原子は人工的に作れないこと。石油のように「代替燃料を探す」という話ができません。さらに、埋蔵量が一部の国に偏っているため、価格や供給が大きく揺れやすいのも弱点です。

たとえると ― リンは「銀行の金庫」
地球の金庫に入っているリンを引き出して使い、使い終わると海へ薄まって流れていく。預け入れ(補充)ができない一方通行の口座のようなものです。だから「使ったら取り戻す」ことが、何より効いてきます。

03窒素 ―空気に無尽蔵、でも“使える形”が大変

窒素は逆に、空気の約78%を占める無尽蔵の資源です。問題は「量」ではなく、「形」と「エネルギー」と「漏れ」。空気中の窒素はとても反応しにくく、そのままでは植物が使えません。

これを作物が使える形(アンモニア)に変えるのがハーバー・ボッシュ法ですが、高温・高圧という厳しい条件が必要で、世界の全エネルギー消費の2〜3%を使うとも言われます。しかも、まいた窒素の大半は作物に取り込まれず環境へ漏れ出し、アオコや沿岸の“デッドゾーン”、温暖化などの原因に変わってしまいます。

たとえると ― 窒素は「電気」
原料(空気)はタダで無限。でも、使える形に「充電」するのに大きなエネルギーがかかり、しかも充電した分を使い切れずに漏らしてしまい、その漏れが公害になる。それが窒素の悩みです。
Table 1リンと窒素――同じ「枯渇」でも中身が逆
  リン(P) 窒素(N)
問題の本質 在庫が尽きる エネルギーと漏れ
どこにある? 地中のリン鉱石(限りあり) 空気の約78%(無尽蔵)
人工的に作れる? 作れない(元素は増やせない) 固定はできるが大量のエネルギーが必要
日本の状況 国内に鉱床がなく、ほぼ全量を輸入 原料の空気は無限。ただし肥料は輸入・化石燃料に依存
主なリスク 枯渇・価格高騰・産地の偏り 富栄養化・温暖化などの環境負荷

04いちばんの問題は「使い捨て」になっていること

2つに共通するのは、せっかく投入した栄養が使い捨てになっている点です。リンを例にとると、日本は年あたりおよそ70万トンのリンを輸入していますが、その大半(約62万トン規模)が最終的に土壌や川・海へ流れ出て、富栄養化の原因になっています。

ところが一方で、家畜のふん尿・下水汚泥・各種の残渣には大量のリンが含まれています。つまり「捨てている場所」に、実は資源が眠っている――ここを取り戻せるかどうかが分かれ目です。

Fig.1リンの使われ方を「これまで」と「これから」で比べる(イメージ)

これまで(直線型・使い捨て)活用大半が環境へ流出(回収されず)これから(循環型・取り戻す)活用回収して畑へ戻す流出(縮小)流出していた分を回収へ

社会・農で活用
回収して畑へ戻す
環境へ流出(もったいない)
※ 割合はわかりやすさを優先したイメージです。日本は年あたりおよそ70万トンのリンを輸入し、その大半(約62万トン規模)が最終的に土壌・水域へ流れ出るとされます。一方で家畜ふん尿・下水汚泥・各種残渣には多くのリンが含まれ、回収の余地があります。

Fig.2日本のリンの流れ ― 入れた分の大半が環境へ

輸入約70万t/年自給率ほぼ0%国内で利用肥料・食料など環境へ流出約62万t・富栄養化の原因廃棄物に蓄積ふん尿・下水・残渣などここが回収のチャンス

輸入・利用(既定)環境へ流出(もったいない)廃棄物=回収のチャンス
※ 数値は概数・イメージです。回収できる二次資源(家畜ふん尿・下水汚泥・各種残渣)に、実は多くのリンが含まれています。

05解決は「漏らす前に回収して、戻す」

ここでサーキュラーエコノミー(循環経済)の出番です。発想はとてもシンプルで、「漏らす前に堰き止めて、もう一度畑へ戻す」。下水汚泥や家畜ふん尿、食品・水産・林業の残渣に含まれるリンと窒素を回収して肥料原料に再生すれば――

Step 1

資源を入れる
肥料の原料として、リンや窒素を畑に投入します。
Step 2

作物・製品になる
食べものや製品として、社会のなかで使われます。
Step 3

廃棄物が出る
ふん尿・下水汚泥・食品/水産/林業の残渣に栄養がたまります。
Step 4

関所で回収
漏らす前に堰き止め、肥料原料へ再生して畑へ戻します。

いちばん効くのが Step 4 の「関所」。ここで取り戻した分だけ、輸入(=枯渇)も流出(=汚染)も同時に減らせます。枯渇と汚染を一手で解く、数少ない打ち手です。

Fig.3サーキュラーエコノミーの輪(関所モデル)

資源投入採掘・輸入生産・利用食料・製品廃棄物農林水産業から関所=回収再資源化回収したリン・窒素を畑へ戻す

資源投入廃棄物関所=回収・再資源化
※ 廃棄物を「漏らす前」に堰き止めて畑へ戻すのが関所(Step 4)。取り戻した分だけ、輸入も流出も減らせます。
Table 2直線型と循環型のちがい
  直線型(これまで) 循環型(これから)
資源の流れ 採って・使って・捨てる 使って・回収して・また使う
輸入(枯渇) 増えやすい 減らせる
環境への流出 そのまま漏れる 堰き止めて減らす
廃棄物の見かた ゴミ・処理コスト 資源・“鉱脈”

067HGの「関所」と、足元の廃棄物

「関所(ゲート)」という考え方は、まさにこの回収の工程そのものです。資源が環境へ漏れ出ていく流れの途中に関所を置き、通り抜けようとする栄養塩を堰き止めて、価値あるものに変えて送り出す。林業・水産業・畜産業・農業から出る廃棄物は、私たちにとって「ゴミ」ではなく、リンと窒素を取り戻すための“鉱脈”です。

Table 3“鉱脈”になりやすいのはどこ?
区分 回収のしやすさ
集めやすい 下水汚泥・家畜ふん尿 一か所に集まり、量も安定。回収の本命です。
条件しだい 食品・水産・林業の残渣 地域や仕組み次第で、十分に回収できます。
むずかしい いちど海へ拡散したリン 薄く広がると、回収はほぼ困難になります。
7HG からのひとこと

「関所(ゲート)」とは、通り抜けようとするものを、いちど立ち止まらせて見極める場所のこと。私たちにとって廃棄物は、ただのゴミではなく、リンや窒素という大切な資源が最後に集まってくる“関所”です。

林業・水産業・畜産業・農業から出るものを、漏らす前につかまえ、価値あるものに変えて送り出す。枯渇と汚染という二つの心配を、同時にやわらげる――足元から始められる循環です。「誰一人取り残さない」未来は、こうして身近な資源を捨てないところから始まると、私たちは考えています。

出典・参考

  • 北海道大学 研究シーズ集「リンの高効率かつ高選択的な分離回収技術」
  • 日本薬学会 関連トピックス「リン資源の枯渇問題とリサイクルに関する技術開発の重要性」
  • 日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ/日経サイエンス(反応性窒素と環境問題)
  • 「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」関連解説(J-STAGE 掲載資料ほか)
  • academist Journal(ハーバー・ボッシュ法と工業的窒素固定のエネルギー)
本記事は2026年6月時点で公表されている情報をもとに、一般向けにわかりやすく整理したものです。数値は概数・イメージであり、研究や統計の前提によって幅があります。最新の状況や個別の判断にあたっては、公式の統計・一次情報および専門家への確認をおすすめします。