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運ぶ費用は、運賃だけではない

主題 物流コストの再試算と地産地消モデル読了およそ10分2026年8月

3行でわかる

  1. 荷主企業の売上高物流コスト比率は全業種平均でおよそ5.3%。ただし請求書に載るのは費用の一部で、荷待ち・返品・規格外・鮮度劣化・在庫金利は別の勘定科目に散っている。
  2. 2024年問題の影響は地域と品目に偏る。地域別では中国地方が最も高くおよそ20%、発荷主別では農産・水産品の出荷団体がおよそ32%。運べない前提から設計をやり直す段階にある。
  3. 地産地消は「距離を短くする話」ではなく、段を減らして取り分を組み替える話。事業として成立させる鍵は、積載率・片荷・定期性の三つに集約される。

01物流費は変動費ではなく、構造である

運賃が上がったから物流費が上がった、という説明は半分しか当たっていない。運ぶ量あたりの効率が落ち続けているから、単価が上がると総額が跳ねる。

日本ロジスティクスシステム協会の調査では、荷主企業の売上高物流コスト比率は全業種平均で5.32%(2025年度調査)。前年からはわずかに低下したものの、過去20年でみれば4番目に高い水準にある。物流事業者からの値上げ要請と人件費の上昇が背景にあり、長期の傾向としては上向きのままである。

その裏側では、運ぶ効率そのものが落ちている。1件あたりの貨物量はこの30年でおよそ3分の1に縮み、件数はほぼ倍増した。小口・多頻度化が進み、貨物自動車の積載率は2010年度以降40%以下で推移している。空気を運ぶ距離が長いほど、運賃改定の影響は増幅される。

Fig.1効率が落ちながら、単価が上がった

1件あたりの貨物量1/3この30年でおよそ3分の1へ物流件数×2同じ期間にほぼ倍増貨物自動車の積載率40%2010年度以降、40%以下で推移

出典:持続可能な物流の実現に向けた検討会および国土交通省資料をもとに作図。数値は概数。

影響の出方は一様ではない。2024年の時間外労働の上限規制だけを取り出した試算では、全国で輸送能力のおよそ14%が不足するとされ、その内訳は地域と品目に強く偏っていた。地域別では中国地方がおよそ20.0%で最も高く、九州およそ19.1%、関東およそ15.6%と続く。発荷主別では農産・水産品の出荷団体がおよそ32.5%で突出している。対策を打たないまま推移した場合、2030年度には全国で輸送能力のおよそ34%、9億トン相当が不足するという推計もある。

中国地方と、一次産品
広島に本社を置き、農林水産の残さと未利用資源を扱う事業者にとって、この二つの数字は他人事ではない。最も運びにくい地域で、最も運びにくい荷物を扱っている。ここでは「運送会社を探す」ことが解にならない局面が先に来る。
The bottleneck is not the truck. It is the shape of the flow.

02全ての物流コストを、もう一度数える

物流費の再試算とは、運賃を叩くことではない。運賃以外の場所に散らばった同じ性質の費用を、一つの勘定に集め直すことである。

荷主の帳簿では、輸送に関わる費用が複数の科目に分かれて計上される。支払運賃は物流費に、包装資材は製造原価に、冷蔵の電力は水道光熱費に、売れ残りの処分は棚卸減耗に、規格外で出荷を諦めた分はそもそもどこにも計上されない。科目が違えば担当部署も違い、合計されることがないまま各部署が個別に削減努力を続ける。これが物流費の総額が動かない主因である。

Tab.1再試算のチェックリスト(一次産品・食品を想定)
費目 ふだんどこに現れるか 見え方
支払運賃(貸切・積合) 物流費/荷造運賃 顕在
燃料サーチャージ 物流費(2024年告示で基準価格が明示) 顕在
荷待ち・荷役の対価 物流費(2024年告示で標準額を提示) 顕在
高速道路料金・待機料 物流費 顕在
包装・荷造資材 製造原価/販管費 半顕在
保管料・冷蔵冷凍の電力 販管費/水道光熱費 半顕在
選別・荷造の労働 人件費/自家労賃(計上されないことも) 半顕在
在庫の金利・保険 支払利息/保険料 潜在
返品・売れ残りの廃棄 棚卸減耗/雑損失 潜在
鮮度劣化に伴う値引き 売上値引 潜在
規格外・出荷断念分 計上されない(機会損失) 潜在
輸送に伴うCO2 未計上(将来の排出コスト) 潜在

潜在側を足し戻すと、順位が入れ替わることがある。運賃を数%削る交渉より、返品率を1ポイント下げるほうが効く。長距離を1便減らすより、規格外を売り先ごと設計するほうが効く。どこを削るかは、全部を同じ単位で並べてから決める。この順序を逆にすると、削りやすいところだけが削られる。

価格の側から見ると、構造はさらに明快になる。青果物の調査では、小売価格に占める流通経費はおよそ51.5%。内訳は集出荷団体およそ15.0%、卸売手数料およそ5.2%、仲卸およそ11.5%、小売およそ19.9%で、生産者の受取はおよそ48.5%にとどまる。運賃だけを見ていると見落とすが、費用の多くは「運ぶこと」ではなく「段を通ること」で発生している。

Fig.2小売価格を100としたときの内訳(青果物)

48.515.011.519.9卸売手数料 5.2生産者受取流通経費 およそ51.5生産者受取価格集出荷団体経費卸売手数料仲卸経費小売経費各段の経費には、その段の事業者の利潤等を含む。

農林水産省・令和4年度の青果物調査(試算値)をもとに作図。品目により幅がある。

03地産地消は「距離」ではなく「段」の話

近くで採れたものを近くで食べる、という説明は結論を隠してしまう。事業として見たとき、地産地消が効くのは距離が縮むからではなく、通過する段が減るからである。

距離だけを短くしても、集荷が細切れのままなら積載率は上がらない。逆に、距離が同じでも段が減れば、その段で発生していた手数料・積替え・待機・在庫の滞留がまとめて消える。産地から中央市場を経て戻ってくる往復のうち、実際に価値が付いているのは一部にすぎない。

Fig.3段を減らすとは、どういうことか

従来型 段ごとに費用が積み上がる産地集出荷団体卸売市場仲卸小売消費+15.0+5.2+11.5+19.9地域循環型 段を減らし、往復で積む産地・加工規格外も含めて出す地域内ハブ(関所)共同集荷・定温・仕分け・積合せ需要給食・小売・外食・加工戻り便に、資材・堆肥・回収物を載せる

数値は Fig.2 の内訳。段が消えれば、その段の経費と滞留も同時に消える。

ただし、消える費用だけを数えると設計を誤る。段が減ると新たに要る費用もある。地域内で集荷を束ねる人件費、定温設備、少量多品目の仕分け、需要が読めないときの在庫。従来は卸と仲卸が担っていた機能を、誰かが引き受け直すことになる。地産地消が「善いことなのに続かない」典型は、この引き受け手と原資を決めずに始めた場合である。

たとえるなら
段を減らすのは、川に架かる橋を撤去することではない。橋の数を減らして、残した橋を太くすること。細い橋が五本あるより、太い橋が一本あるほうが、荷も人も速く渡れる。ただし太い橋には、それを維持する主体と通行料の設計が要る。

04事業としての考え方 ── 誰が払い、誰が受け取るか

地産地消を運動ではなく事業として置くとき、問いは一つに絞られる。減った費用は、どの当事者の帳簿で増えるのか。

費用の削減額が、そのまま誰かの売上になるとは限らない。生産者の手取りが増えるのか、需要側の仕入価格が下がるのか、ハブの運営者が手数料を得るのか。この配分を先に決めないまま共同配送を始めると、参加者が増えるほど誰の得にもならない状態になる。

01
需要を先に置く
給食・外食・小売・加工の年間数量と納期を先に確定させる。供給から始めない。
02
集荷を束ねる
複数の生産者・事業者の出荷を一つの便に載せる。単独では埋まらない車を埋める。
03
ハブで積み替える
定温と仕分けの機能を一点に集める。段ではなく、機能として置く。
04
戻り便を売る
空で戻る枠を商品にする。資材・回収物・堆肥・域外向け貨物を載せる。
この4段はどれか一つが欠けると成立しない。とくに01と04は、事業の採算がそこで決まる。
Tab.2収益の源と、感応度
収益の源 誰が払うか 何に対して 効きやすい指標
共同便の枠販売 出荷者(生産者・加工事業者) 便あたり・容積あたり 積載率
ハブの利用料 出荷者・需要側 保管日数・温度帯 稼働率
年間供給契約 給食・外食・小売 数量と納期の確定 契約率
戻り便の販売 域外の荷主 空車枠 片荷率
規格外の別建て販売 加工・外食 原料重量 歩留り
実績データの提供 荷主・自治体 報告義務への対応 対象事業者数

最後の一行は、制度の変化に紐づいている。改正物流効率化法は2025年4月に努力義務と判断基準が施行され、2026年4月からは一定規模以上の事業者が特定事業者に指定され、中長期計画の提出と物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられた。荷主側に「物流の実績を説明する責任」が生じたことで、輸送実績と積載率のデータそのものが値のつく情報になっている。

05事業モデルとして成立する条件

共同配送も地域内ハブも、思想では黒字にならない。成立の可否は、ごく少数の数字で判定できる。

同じ車両で同じ距離を走るとき、単位あたりの輸送費用は積載率にほぼ反比例する。積載率40%を70%まで引き上げれば、単位費用は単純計算でおよそ4割下がる。運賃交渉で4割を取ることは現実的ではないが、積み方の設計でなら届く範囲にある。

Fig.4積載率が変わると、単位費用はどう動くか

同じ車両・同じ距離での、単位あたり輸送費用(指数)積載率 40%100積載率 70%57積載率に反比例するという単純計算。荷待ち・積替え・返品はここに含まれない。

試算であり、実際の効果は品目・温度帯・距離・帰り荷の有無で変わる。

判定に使う数字は次の五つに絞ってよい。積載率(往路で車がどれだけ埋まるか)、片荷率(復路が空で戻る割合)、定期性(週あたり何便が確定しているか)、温度帯(常温・定温・冷蔵で固定費が段違いに変わる)、年間ロット(設備の減価償却を支えられる量があるか)。この五つが揃わない地域では、ハブを建てるより既存便に相乗りするほうが早い。

補助金は、始まりの燃料であって、事業の骨格ではない
初期の設備に補助が付くことは多い。だが、運営の採算は需要契約と積載率が決める。補助が切れた年に赤字へ転じる設計は、最初から赤字である。先に契約、次に設備。順序を逆にしないこと。

地産地消の市場そのものは小さくない。農産物直売所の年間販売金額は全国でおよそ1兆円、事業体数はおよそ2万2千件にのぼる。すでに需要と売り場は存在している。不足しているのは、それらを一つの便に束ねる中間の機能と、その機能を維持する原資の設計である。

06時間軸 ── どこまで来たか

20243月
標準的な運賃が改定。運賃水準がおよそ8%引き上げられ、荷待ち・荷役の対価と燃料サーチャージの基準が明示された。運賃が「交渉の余地」から「基準のある費用」へ移った。
20244月
時間外労働の上限規制が適用。長時間労働で埋めていた輸送能力が、制度上使えなくなった。
20254月
改正物流効率化法の第一段階が施行。荷主・物流事業者に効率化の努力義務と判断基準が課された。
20264月
第二段階が施行。一定規模以上の事業者が特定事業者に指定され、中長期計画の提出と物流統括管理者(CLO)の選任が義務化。物流が経営の議題に上がった。
2030推計
対策がないまま推移した場合、全国で輸送能力のおよそ34%が不足するとの推計。地方ほど先に効く。

制度は「運べないこと」を前提に組み替えられつつある。荷主が物流を説明する側に回った以上、供給側の設計を待つのではなく、需要側から便を設計し直す時間帯に入っている。

7HG からのひとこと

捨てられていた農地、閉じた学校、山に残る材、水産の残さ。これらは費用の塊に見えて、実は同じ便に載せられる荷である。ばらばらに運ぶから高くつく。束ねる場所を一つ置くだけで、費用は運賃ではなく設計の問題に変わる。

関所とは、通せんぼの場所ではない。通るものを数え、束ね、次に渡す場所のことである。地域に一つ、その場所を置く。7HG が扱っているのは、その場所の設計と、そこを維持する原資の組み立てである。

Re:design the route. Re:born the value.

出典・注記

  • 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2025年度物流コスト調査報告書(概要版)」(売上高物流コスト比率 5.32%・全業種平均)
  • 持続可能な物流の実現に向けた検討会(国土交通省・経済産業省・農林水産省)第3回 株式会社NX総合研究所提出資料および同検討会中間とりまとめ(輸送能力不足の試算、地域別・発荷主別の内訳)
  • 国土交通省「新たなトラックの標準的な運賃を告示しました」(2024年3月22日告示)
  • 農林水産省「令和4年度食品流通段階別価格形成調査(青果物調査)結果」(小売価格に占める流通経費等の試算値)
  • 農林水産省「令和4年度6次産業化総合調査結果」(農産物直売所の年間販売金額・事業体数)
  • 物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)および関係省令に基づく施行スケジュール
本ページは情報提供を目的としたものであり、特定の投資・取引・契約を勧誘するものではありません。数値は公表資料に基づく概数および試算値であり、品目・地域・時期により実際の値は異なります。制度の詳細および最新の運用は、所管省庁の公表内容をご確認ください。