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ワット・ビット連携とは——電気とデータを、同じ地図の上に置く
3行でわかる
- ワット・ビット連携とは、電力(ワット)のインフラと通信(ビット)のインフラを、別々ではなく一体で計画するという考え方。AIの普及でデータセンターの電力需要が急に伸びたことが発端。
- 送変電設備の増強にはおよそ5〜10年、データセンターの建設はおよそ2〜3年。この時間差を埋めるために、電気に余力のある土地へ計算の需要を動かす。
- 2025年6月に「取りまとめ1.0」、同年8月に「GX戦略地域制度」、2026年4月に有望38地域。制度はまだ選定の途中段階にある。
01二つのインフラは、別々に引かれてきた
ワットは電力の単位、ビットは情報の単位。この二つを並べた言葉は、電力会社と通信会社とデータセンター事業者が、これまでそれぞれの計画で、それぞれの設備を建ててきたという事実を裏返しに言い表している。
生成AIの利用が広がり、演算処理を担うデータセンターの需要が急に膨らんだ。国内のデータセンター市場は2027年に4兆円を超えるという予測もある。ところが立地は東京圏と大阪圏に偏っており、災害時の集中リスクと、電力・通信の偏りが同時に問題になった。
さらに厄介なのが、建設にかかる時間の差である。データセンターは建てようと思えば数年で建つ。だが、そこへ大量の電気を運ぶ送変電設備は、用地交渉から工事まで含めて10年近くを要することがある。建てたい人がいて、電気が届かない。この食い違いが、いまの日本のあちこちで起きている。
港と道路の関係に近い。荷を受ける港(データセンター)は数年で築ける。しかし港に至る幹線道路(送電線)は、用地の取得から数えて10年仕事になる。港だけ先に建てても、荷は着かない。ならば——すでに道路が通っている場所に、港を建てればよい。ワット・ビット連携の出発点は、この単純な発想にある。
02誰と誰が、何を持ち寄るのか
連携の当事者は三者ある。電力事業者、通信事業者、データセンター事業者。そこに用地と地域の合意を握る自治体が加わる。四者が同じ地図を見ることで、はじめて「どこに、いつ、どれだけ建つか」の見通しが立つ。
この構想は2024年7月、GX2040リーダーズパネルの場で東京電力パワーグリッドが提唱したものが起点とされる。民間発の発想が、およそ1年で国の政策の枠組みに組み込まれた。
03具体的に、何をするのか
掛け声だけの構想ではなく、いくつかの具体的な手立てが並んでいる。いずれも「新しい送電線を待たずに済ませる」ための工夫である。
| 手立て | 内容 | ねらい |
|---|---|---|
| ウェルカムゾーンマップ | 送電網を新たに増強しなくても、比較的短い期間で電力供給を始められる地域を地図で示す。 | 既存の系統設備を使い切る。誘致の当てが立つ。 |
| ワークロードシフト | 演算処理そのものを、電力に余裕のある地域の拠点へ動的に移す。 | 電力消費の時間と場所を動かせるようにする。 |
| オール光ネットワーク(APN) | 低遅延・大容量の次世代光通信で拠点間を結ぶ。 | 郊外に置いても都市部と遜色ない応答性を保つ。 |
| 小規模・分散型のデータセンター | 2MW未満の高圧電力で動くコンテナ型・モジュール型を各地に置く。 | 特別高圧の受電設備を待たずに立ち上げる。 |
| 地域共生 | 排熱を地域の熱源として使う、省エネ基準に対応する等。 | 立地する地域側に便益を残す。 |
高圧電力で受けられる上限がおよそ2MW。ここを超えると特別高圧の受電設備が要り、系統への接続手続きも重くなる。「2MWの壁」と呼ばれるこの線の手前に収めた小型のデータセンターを、廃校跡地や既存建物に置く事例が各地で出ている。石川県志賀町、香川県高松市、佐賀県玄海町などが知られる。
04制度としての現在地
ワット・ビット連携は、いま「議論」から「地域を選ぶ」段階に移っている。国は電力・通信インフラの整備と規制の緩和を、選ばれた地域に集中して投じる構えである。
なお中国地方からは、コンビナート等再生型で岡山県・山口県が有望地域に入っている。データセンター集積型の9道県には中国地方は含まれていない。
05三つの時間軸で読む
この構想は、ひとつの目標に向かって一直線に進むものではない。性質の違う三つの戦略が、時間差で重なっている。ここを分けて読まないと、議論がかみ合わなくなる。
06立場が変われば、意味も変わる
| 立場 | 起きること | 論点 |
|---|---|---|
| 電力事業者 | 系統の余力がある地域へ需要が来る。新規の送電線建設を抑えられる。データセンターが需要側の調整力として働きうる。 | 一方向の系統から双方向の系統へ。制御の設計が要る。 |
| データセンター・通信事業者 | 電力の確保時期が読めるようになる。用地の選択肢が全国へ広がる。 | 2029年度以降の新設には省エネ対応が求められる方向。 |
| 自治体・地域 | 雇用、税収、デジタル人材、関連産業の集積が見込まれる。 | 水・熱・景観・電気料金への影響。住民の合意をどう得るか。 |
| 再エネ事業者 | 発電地の近くに大口の需要が生まれる。出力抑制の受け皿になりうる。 | 地域と共生した電源であることが、支援の前提に置かれつつある。 |
とりわけ地域側の論点は軽くない。データセンターは雇用を生む一方で、運転そのものに要する人員は多くない。排熱を地域の熱源として使う、地域の計算需要を地域内で賄う——そうした具体的な便益を設計に織り込めるかどうかが、住民の受け止めを分ける。欧州では排熱を地域暖房や農業用ハウスに回す先行事例がある。
ワット・ビット連携は、突き詰めれば「余っている電気」と「行き場のない計算」のあいだに立つ関所の話である。片側には、系統に余力がありながら需要のない土地がある。もう片側には、電気が届かず建てられない拠点がある。両者を通す関所が、まだどこにも建っていない。
7HGが向き合ってきた廃校、遊休地、放置された農地は、いずれも「使い道を失った資産」として同じ性格を持つ。そこに系統の余力が重なるとき、土地は再び台帳に載る。制度は選定の途中にあり、答えは出ていない。だが、どの土地が関所になりうるかを先に読むことは、いまからできる。
Where the watt is idle, the bit should travel.
出典・注記
- 経済産業省・総務省「ワット・ビット連携官民懇談会取りまとめ1.0」(2025年6月12日公表)。
- 経済産業省「ワット・ビット連携官民懇談会」開催に関する報道発表(2025年3月18日)。
- 経済産業省「GX戦略地域制度」および「GX戦略地域の選定に関する公募」(2025年12月23日)、有望地域の選定結果(2026年4月24日公表)。
- 「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」(2025年2月閣議決定)。
- 三菱総合研究所「地域に貢献するワット・ビット連携3.0構想とは」MRIオピニオン(2025年6月)。
- 日本経済新聞(2026年1月13日、2026年4月24日)ほか各報道。


