水産業
海から陸へ、「獲る」から「育てる」へ。
養殖を、地域の産業として設計する。
3行でわかる事業内容
- 養殖には大きく「陸上養殖(RAS)」「海面養殖」「沖合養殖」の三つがあり、それぞれに固有の可能性と壁がある。
- 最大の壁は、じつは技術よりも「お金の流れ」。初期投資が重く、種苗から出荷まで時間がかかり、資金が後ろ倒しになりやすい。
- 7HGは、再生可能エネルギーで積み上げてきた事業性評価とファイナンス組成の手法を水産に持ち込み、地域に根づく産業として設計する。
01なぜ、いま養殖なのか
天然の魚は、世界的に獲れる量が頭打ちになっている。一方で魚を食べたい人は増え続けている。その差を埋めているのが養殖だ。
いま、世界で食べられている水産物のおよそ半分は養殖ものになった。日本でも、海面養殖は生産量およそ100万トン・産出額およそ5,100億円の規模を持つ、すでに大きな産業だ(水産庁資料)。けれど近年は、海水温の上昇や海洋環境の変化、漁業者の高齢化と減少が重なり、「これまで通り獲る・育てる」だけでは先が読みにくくなっている。
養殖は「魚の畑」です。野生の魚を追いかけて獲るのが狩猟だとすれば、養殖は種をまき、水と餌と温度を管理して、決まった時期に決まった量を収穫する農業に近い。「定質・定量・定時・定価格」——いつでも同じ品質・量・時期・値段で出せること——が、産業としての養殖の価値になります。
02三つの養殖方式を、一枚で
養殖は「どこで育てるか」で性格が大きく変わる。海にいちばん近いのが海面養殖、沖に出てより大きく構えるのが沖合養殖、そして海から切り離して陸の施設で水を循環させるのが陸上養殖(RAS)だ。下の図は、その並びを「自然のちから」と「人の制御」という軸で示したもの。
03陸上養殖(RAS)— 自由さと、電気代という宿命
RAS(閉鎖循環式陸上養殖)は、海から切り離した水槽の水をろ過して何度も循環させる方式。海がなくても、内陸でも魚が育てられる。
いちばんの強みは「漁業権がいらない」こと。海面を使わないため、水産以外の大手企業や異業種、外資の新規参入が一気に増えた。岐阜・飛騨では温泉水を使った「飛騨とらふぐ」が観光と結びつき、千葉・富津では年間およそ3,500トンのサーモン商業プラントが立ち上がろうとしている。海水温や赤潮に左右されず、まちなかでも育てられる——これが地方創生の文脈で陸上養殖が注目される理由だ。
ただし、自由と引きかえの宿命がある。水を循環させるポンプ・ろ過・水温管理が、ぜんぶ電気で動く。日本の産業用電気料金は欧米やノルウェーより高く、ここが国際競争の弱点になりやすい。初期投資が重いうえに、毎月の電気代が経営を圧迫する——これがRASの最大の壁だ。
陸上養殖は「持続的養殖生産確保法」にもとづき、国への届出が必要になりました。届出件数は年々増加し、2025年初の時点で多い順に海ぶどう・ヒラメ・クルマエビ・トラフグ。高く売れて、育て方が確立している魚種から産業化が進んでいます。
04海面・沖合養殖 — 海の恵みと、海のリスク
海面養殖は日本の養殖の本流。ブリ・マダイ・カキ・海苔など、湾内の生簀で育てる古くからの方式だ。
強みは、海の水・温度・酸素を「ただで」使えること。電気で水を回す必要がなく、ランニングコストはRASより軽い。近年はより沖に出て大型の生簀を構える沖合養殖が、実証から本格稼働の段階へ進み、自動給餌や魚体計測などのスマート水産(ICT活用)が現場に入りはじめている。沖は波が荒い分、水がきれいで魚の密度を上げられる可能性がある。
一方でリスクも海に直結している。海水温の上昇で従来の魚が育ちにくくなり、赤潮や時化(しけ)が一度の被害を大きくする。漁業権という地域の合意が前提で、新規参入のハードルは陸上より高い。担い手の高齢化も重い課題だ。
海面養殖は「天然の冷暖房つきの畑」。光熱費はかからないけれど、天気(海の状態)次第で不作にもなる。陸上養殖は「室内の植物工場」。光熱費はかかるけれど、天気に関係なく毎年同じだけ収穫できる。どちらが良いかではなく、地域とお金の事情でどちらを選ぶか、という話です。
05三方式の比較表
同じ「養殖」でも、立地・お金・リスクの性格はかなり違う。投資や融資を考えるときに最初に見るべき観点を一枚にまとめた。
| 観点 | 海面養殖 | 沖合養殖 | 陸上養殖(RAS) |
|---|---|---|---|
| 育てる場所 | 湾内の生簀 | 沖合の大型生簀 | 陸上の循環水槽 |
| 漁業権 | 必要 | 必要 | 不要 |
| 初期投資 | 軽め | 中〜大 | 大 |
| ランニング | 軽め(無電力) | 中 | 重い(電気代) |
| 高水温・災害 | 影響大 | 影響中 | 影響小 |
| 異業種参入 | 難しい | やや難 | しやすい |
| 地方創生との相性 | 既存漁村の強化 | 新拠点化 | 内陸・遊休地の活用 |
紺=強み・障壁が低い/真鍮=重い負担/灰=不要・該当なし。どれが優れているかではなく、地域条件と資金計画で選ぶ。
06本当の壁は「お金の流れ」
技術は世界で確立しつつある。多くの計画がつまずくのは、技術ではなく資金繰りだ。
養殖は、種苗を入れてから出荷できる大きさに育つまで、魚種によっては年単位の時間がかかる。つまりお金は先に大きく出ていき、売上は後からしか戻ってこない。施設をつくる初期投資、魚が育つまでの餌代・電気代・人件費(運転資金)——この「谷」を越えられるかどうかが、事業の生死を分ける。下の図は、養殖事業のお金の動きを一本の線で表したものだ。
07民間投融資の可能性 — 谷を支える四つの手
この「谷」を一社・一者の自己資金だけで越えるのは難しい。だからこそ、性格の違うお金を組み合わせる。
水産はいま、補助金だけに頼る世界から、民間のお金が入ってくる世界へ移りつつある。次世代型の養殖技術の国内市場はすでに年およそ680億円規模に達し(矢野経済研究所)、ベンチャーキャピタルやコーポレートの資本業務提携、銀行のプロジェクトファイナンスが現実の選択肢になってきた。資金は大きく分けて「出資(エクイティ)」「融資(デット)」「補助金」「事業会社との提携」の四つ。下の図のように、これらを積み上げて初期投資をまかなう。
じつは養殖の資金構造は、太陽光発電所や系統用蓄電所とよく似ています。先に大きく投資し、長い時間をかけて回収する——だから、将来のキャッシュフローを丁寧に見積もり、補助金・融資・出資をどう積み上げるかが勝負になる。7HGが再生可能エネルギーで積み上げてきた事業性評価(IRR・回収期間・返済余力)の考え方は、そのまま水産にも持ち込めます。
087HGの関わり方 — 関所をひとつずつ
7HGは、自然エネルギーから地方創生・サーキュラーエコノミーまでを一本の線でつなぐ会社だ。水産業は、その線の上にある「地域に新しい産業を設計する」仕事のひとつ。
養殖を「育てて売る」だけで終わらせない。どこで・何を・どんなお金で育て、出た廃棄物をどう資源に戻すかまで含めて、ひとつの産業として地域に置く。エネルギー(電気代をどう下げるか)、ファイナンス(谷をどう越えるか)、サーキュラー(水産廃棄物の再資源化)——別々に見えるこれらを、ひとつの設計図の中で結ぶのが7HGの役割だ。
09これまでとこれから
魚を育てる技術は、もう日本にも世界にもあります。足りないのは技術ではなく、「先に出ていくお金」と「後から戻るお金」のあいだの谷を、地域と一緒に越えていく設計です。
私たちは再生可能エネルギーで、長く重い投資を回収まで導く仕事を積み上げてきました。同じ手の届け方を、海と陸の養殖にも。獲るだけでも、育てるだけでもなく、地域に残る産業として。誰一人取り残さない繁栄を、一つひとつの関所から。
Seven hills. Seven continents. One gate at a time.
出典・注記
- 水産庁『養殖業成長産業化総合戦略』『養殖業成長産業化の推進』『陸上養殖業の届出件数について(令和7年1月1日時点)』。
- 矢野経済研究所『2025年版 養殖ビジネスの市場実態と将来展望』(次世代型養殖技術 国内市場規模)。
- 海面養殖の生産量・産出額、養殖魚種の動向は水産庁公表資料に基づく概数。
- 産業用電気料金の国際比較、RAS・沖合養殖の事業化動向はみなと新聞ほか業界報道に基づく。
- 陸上養殖の事業例(飛騨とらふぐ・富津サーモン等)、水産スタートアップの資金調達事例は各社公表情報・報道に基づく。


