物流コスト
運ぶ費用は、運賃だけではない。
3行でわかる
- 荷主企業の売上高物流コスト比率は全業種平均でおよそ5.3%。ただし請求書に載るのは費用の一部で、荷待ち・返品・規格外・鮮度劣化・在庫金利は別の勘定科目に散っている。
- 2024年問題の影響は地域と品目に偏る。地域別では中国地方が最も高くおよそ20%、発荷主別では農産・水産品の出荷団体がおよそ32%。運べない前提から設計をやり直す段階にある。
- 地産地消は「距離を短くする話」ではなく、段を減らして取り分を組み替える話。事業として成立させる鍵は、積載率・片荷・定期性の三つに集約される。
01物流費は変動費ではなく、構造である
運賃が上がったから物流費が上がった、という説明は半分しか当たっていない。運ぶ量あたりの効率が落ち続けているから、単価が上がると総額が跳ねる。
日本ロジスティクスシステム協会の調査では、荷主企業の売上高物流コスト比率は全業種平均で5.32%(2025年度調査)。前年からはわずかに低下したものの、過去20年でみれば4番目に高い水準にある。物流事業者からの値上げ要請と人件費の上昇が背景にあり、長期の傾向としては上向きのままである。
その裏側では、運ぶ効率そのものが落ちている。1件あたりの貨物量はこの30年でおよそ3分の1に縮み、件数はほぼ倍増した。小口・多頻度化が進み、貨物自動車の積載率は2010年度以降40%以下で推移している。空気を運ぶ距離が長いほど、運賃改定の影響は増幅される。
影響の出方は一様ではない。2024年の時間外労働の上限規制だけを取り出した試算では、全国で輸送能力のおよそ14%が不足するとされ、その内訳は地域と品目に強く偏っていた。地域別では中国地方がおよそ20.0%で最も高く、九州およそ19.1%、関東およそ15.6%と続く。発荷主別では農産・水産品の出荷団体がおよそ32.5%で突出している。対策を打たないまま推移した場合、2030年度には全国で輸送能力のおよそ34%、9億トン相当が不足するという推計もある。
広島に本社を置き、農林水産の残さと未利用資源を扱う事業者にとって、この二つの数字は他人事ではない。最も運びにくい地域で、最も運びにくい荷物を扱っている。ここでは「運送会社を探す」ことが解にならない局面が先に来る。
The bottleneck is not the truck. It is the shape of the flow.
02全ての物流コストを、もう一度数える
物流費の再試算とは、運賃を叩くことではない。運賃以外の場所に散らばった同じ性質の費用を、一つの勘定に集め直すことである。
荷主の帳簿では、輸送に関わる費用が複数の科目に分かれて計上される。支払運賃は物流費に、包装資材は製造原価に、冷蔵の電力は水道光熱費に、売れ残りの処分は棚卸減耗に、規格外で出荷を諦めた分はそもそもどこにも計上されない。科目が違えば担当部署も違い、合計されることがないまま各部署が個別に削減努力を続ける。これが物流費の総額が動かない主因である。
| 費目 | ふだんどこに現れるか | 見え方 |
|---|---|---|
| 支払運賃(貸切・積合) | 物流費/荷造運賃 | 顕在 |
| 燃料サーチャージ | 物流費(2024年告示で基準価格が明示) | 顕在 |
| 荷待ち・荷役の対価 | 物流費(2024年告示で標準額を提示) | 顕在 |
| 高速道路料金・待機料 | 物流費 | 顕在 |
| 包装・荷造資材 | 製造原価/販管費 | 半顕在 |
| 保管料・冷蔵冷凍の電力 | 販管費/水道光熱費 | 半顕在 |
| 選別・荷造の労働 | 人件費/自家労賃(計上されないことも) | 半顕在 |
| 在庫の金利・保険 | 支払利息/保険料 | 潜在 |
| 返品・売れ残りの廃棄 | 棚卸減耗/雑損失 | 潜在 |
| 鮮度劣化に伴う値引き | 売上値引 | 潜在 |
| 規格外・出荷断念分 | 計上されない(機会損失) | 潜在 |
| 輸送に伴うCO2 | 未計上(将来の排出コスト) | 潜在 |
潜在側を足し戻すと、順位が入れ替わることがある。運賃を数%削る交渉より、返品率を1ポイント下げるほうが効く。長距離を1便減らすより、規格外を売り先ごと設計するほうが効く。どこを削るかは、全部を同じ単位で並べてから決める。この順序を逆にすると、削りやすいところだけが削られる。
価格の側から見ると、構造はさらに明快になる。青果物の調査では、小売価格に占める流通経費はおよそ51.5%。内訳は集出荷団体およそ15.0%、卸売手数料およそ5.2%、仲卸およそ11.5%、小売およそ19.9%で、生産者の受取はおよそ48.5%にとどまる。運賃だけを見ていると見落とすが、費用の多くは「運ぶこと」ではなく「段を通ること」で発生している。
03地産地消は「距離」ではなく「段」の話
近くで採れたものを近くで食べる、という説明は結論を隠してしまう。事業として見たとき、地産地消が効くのは距離が縮むからではなく、通過する段が減るからである。
距離だけを短くしても、集荷が細切れのままなら積載率は上がらない。逆に、距離が同じでも段が減れば、その段で発生していた手数料・積替え・待機・在庫の滞留がまとめて消える。産地から中央市場を経て戻ってくる往復のうち、実際に価値が付いているのは一部にすぎない。
ただし、消える費用だけを数えると設計を誤る。段が減ると新たに要る費用もある。地域内で集荷を束ねる人件費、定温設備、少量多品目の仕分け、需要が読めないときの在庫。従来は卸と仲卸が担っていた機能を、誰かが引き受け直すことになる。地産地消が「善いことなのに続かない」典型は、この引き受け手と原資を決めずに始めた場合である。
段を減らすのは、川に架かる橋を撤去することではない。橋の数を減らして、残した橋を太くすること。細い橋が五本あるより、太い橋が一本あるほうが、荷も人も速く渡れる。ただし太い橋には、それを維持する主体と通行料の設計が要る。
04事業としての考え方 ── 誰が払い、誰が受け取るか
地産地消を運動ではなく事業として置くとき、問いは一つに絞られる。減った費用は、どの当事者の帳簿で増えるのか。
費用の削減額が、そのまま誰かの売上になるとは限らない。生産者の手取りが増えるのか、需要側の仕入価格が下がるのか、ハブの運営者が手数料を得るのか。この配分を先に決めないまま共同配送を始めると、参加者が増えるほど誰の得にもならない状態になる。
| 収益の源 | 誰が払うか | 何に対して | 効きやすい指標 |
|---|---|---|---|
| 共同便の枠販売 | 出荷者(生産者・加工事業者) | 便あたり・容積あたり | 積載率 |
| ハブの利用料 | 出荷者・需要側 | 保管日数・温度帯 | 稼働率 |
| 年間供給契約 | 給食・外食・小売 | 数量と納期の確定 | 契約率 |
| 戻り便の販売 | 域外の荷主 | 空車枠 | 片荷率 |
| 規格外の別建て販売 | 加工・外食 | 原料重量 | 歩留り |
| 実績データの提供 | 荷主・自治体 | 報告義務への対応 | 対象事業者数 |
最後の一行は、制度の変化に紐づいている。改正物流効率化法は2025年4月に努力義務と判断基準が施行され、2026年4月からは一定規模以上の事業者が特定事業者に指定され、中長期計画の提出と物流統括管理者(CLO)の選任が義務づけられた。荷主側に「物流の実績を説明する責任」が生じたことで、輸送実績と積載率のデータそのものが値のつく情報になっている。
05事業モデルとして成立する条件
共同配送も地域内ハブも、思想では黒字にならない。成立の可否は、ごく少数の数字で判定できる。
同じ車両で同じ距離を走るとき、単位あたりの輸送費用は積載率にほぼ反比例する。積載率40%を70%まで引き上げれば、単位費用は単純計算でおよそ4割下がる。運賃交渉で4割を取ることは現実的ではないが、積み方の設計でなら届く範囲にある。
判定に使う数字は次の五つに絞ってよい。積載率(往路で車がどれだけ埋まるか)、片荷率(復路が空で戻る割合)、定期性(週あたり何便が確定しているか)、温度帯(常温・定温・冷蔵で固定費が段違いに変わる)、年間ロット(設備の減価償却を支えられる量があるか)。この五つが揃わない地域では、ハブを建てるより既存便に相乗りするほうが早い。
初期の設備に補助が付くことは多い。だが、運営の採算は需要契約と積載率が決める。補助が切れた年に赤字へ転じる設計は、最初から赤字である。先に契約、次に設備。順序を逆にしないこと。
地産地消の市場そのものは小さくない。農産物直売所の年間販売金額は全国でおよそ1兆円、事業体数はおよそ2万2千件にのぼる。すでに需要と売り場は存在している。不足しているのは、それらを一つの便に束ねる中間の機能と、その機能を維持する原資の設計である。
06時間軸 ── どこまで来たか
制度は「運べないこと」を前提に組み替えられつつある。荷主が物流を説明する側に回った以上、供給側の設計を待つのではなく、需要側から便を設計し直す時間帯に入っている。
捨てられていた農地、閉じた学校、山に残る材、水産の残さ。これらは費用の塊に見えて、実は同じ便に載せられる荷である。ばらばらに運ぶから高くつく。束ねる場所を一つ置くだけで、費用は運賃ではなく設計の問題に変わる。
関所とは、通せんぼの場所ではない。通るものを数え、束ね、次に渡す場所のことである。地域に一つ、その場所を置く。7HG が扱っているのは、その場所の設計と、そこを維持する原資の組み立てである。
Re:design the route. Re:born the value.
出典・注記
- 公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会「2025年度物流コスト調査報告書(概要版)」(売上高物流コスト比率 5.32%・全業種平均)
- 持続可能な物流の実現に向けた検討会(国土交通省・経済産業省・農林水産省)第3回 株式会社NX総合研究所提出資料および同検討会中間とりまとめ(輸送能力不足の試算、地域別・発荷主別の内訳)
- 国土交通省「新たなトラックの標準的な運賃を告示しました」(2024年3月22日告示)
- 農林水産省「令和4年度食品流通段階別価格形成調査(青果物調査)結果」(小売価格に占める流通経費等の試算値)
- 農林水産省「令和4年度6次産業化総合調査結果」(農産物直売所の年間販売金額・事業体数)
- 物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)および関係省令に基づく施行スケジュール


